2020年度 第73回 児童生徒生物研究発表大会 (2020年12月〜)

2020年度 第73回 児童生徒生物研究発表大会は参集ではなく、当サイトで発表内容を公開することで行うことになりました。このページでは、一覧、要旨と発表内容を掲載します。

2020年度 第73回 児童生徒生物研究発表大会 発表一覧

 

1.ウニはエサをどうやってさがすのか?

  君津市立北子安小学校 5年 石崎 京・前山 葵

 

2.手賀沼の魚の生態研究パート2 ~稚魚を成長させる事ができるのか?~

  柏市立柏第一小学校 5年 大森千聡

 

3.手賀沼水辺の生物調査(8年目の研究と成果)~ハス全滅による生態系の変化~

  柏市立柏中学校 2年 大森瑛斗

 

4.微生物の生存できる環境に関する研究

  芝浦工業大学柏中学高等学校 科学部 中学校2年 松本直也

 

5.アカハライモリのぬけがらはどこへいくのか

  芝浦工業大学柏中学校高等学校 科学部 中学校2年 根本 越

 

6.洗濯洗剤を使った魚類の透明化について

  ドルトン東京学園中等部・高等部 理化学同好会 2年 黒﨑詩音・石井 月

 

7.柴犬由来ガン細胞のポータブル保冷温庫での増殖について

  ドルトン東京学園中等部・高等部 理化学同好会 2年 谷本直音

 

8. 市販保冷温庫で培養したマスト細胞の顆粒放出について

  ドルトン東京学園中等部・高等部 理化学同好会 2年 小泉 菫

 

9. 冷蔵・冷凍によるキンギョの血球変化について

  ドルトン東京学園中等部・高等部 理化学同好会 2年 小原芽莉

 

10.学校周辺のクズの分布と有効利用に関する研究

  ドルトン東京学園中等部・高等部 理化学同好会 2年 大村直輝・經廣慧汰・村山瑛久・玉置 光

 

11.鳥類における叉骨と胸骨の癒合について

  千葉県立千葉高等学校 生物研究部 2年 有川慶彦

 

12.水生カメ2種の行動比較

  千葉県立長生高等学校 サイエンス部生物班 1年 藤平望羽・杉井遥紀・青木洸人・渡邉雄太

 

13.比較でわかる外来カメ3種の特徴

  千葉県立長生高等学校 サイエンス部生物班 2年 大木帆貴・原 貴都

 

14.クロベンケイガニの生活史に関する研究

  千葉県立大原高等学校生物部 2年 青木 陸・斎藤 翔・1年 麻生真央

 

15.ヒヌマイトトンボの生態調査

  千葉県立国府台高等学校 生物部 2年 小野颯馬・1年 小倉佑哉・速水大知・岡本和也・田積海翔・石田颯汰

 

16..都市地域に生息するキジの分布と生態について

  千葉県立柏中央高等学校 科学部 3年 大平夢希

 

17.ラン科植物の無菌培養に関する研究 ~保護・増殖を試みたラン科植物の紹介~

   中央学院高等学校生物部 2年 高橋蒼大郎・1年 千葉喜翔・石川真都・飯沼陽季

 

 

2020年度 第73回 児童生徒生物研究発表大会 発表要旨・内容

1.ウニはエサをどうやってさがすのか?

  君津市立北子安小学校 5年 石崎 京・前山 葵

発表要旨:

 私たちは、昨年からウニの研究に取り組んでいます。昨年の研究では、ウニはいろいろな食品を食べることがわかりました。その中で、エサに向かっていくウニの行動を見ると、まるでエサを見つけて移動していくと感じました。においや光のようすから、エサを取るしくみを持っているのか?とても疑問に思い、今回の研究を始めるきっかけとなりました。管足とよばれるつくりが、関係するのか行動を観察しながら調べることにしました。

 バフンウニとムラサキウニの2種を飼育して、実験を繰り返したところ、4色のプレートに向かって移動する行動が確認できました。しかし、特定の色に移動する行動があるだろうと予想しましたが、特定の色に移動する結果とはなりませんでした。また、自作のワカメパック(ポリ袋でワカメを封入したもの)を使い、実験したところ、2種のウニは実験用ワカメに移動をして、たどり着くと管足で表面をさぐり、エサを食べる行動にうつることがわかりました。また、エサをさがす行動は、においに関係なく、視覚的な刺激で行動していることがわかりました。

講評:

 ウニがどうやって餌を探すのかを,丁寧に計画して実験しましたね。到着時間を測るのはずいぶん大変であったと思います。今回は質問ができないので,残念なのですが,到着するまでの道筋はどうなっているのでしょう。シャーレの中を適当に動いている間に餌に出会い,それから視覚的にこれが餌だとわかるのでしょうか。この実験をもとに,さらに確かめたいことが出てきたはずです。パックしない餌と並べたらどうなるのでしょうね。いろいろ発想が湧いてくる研究でした。(西田治文)

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PDFファイル 1.1 MB

2.手賀沼の魚の生態研究パート2 ~稚魚を成長させる事ができるのか?~

  柏市立柏第一小学校 5年 大森千聡

発表要旨:

 私は、小さな頃から兄と手賀沼で生物調査をしてきました。今まで色々な水辺の生物を捕獲した時に、沢山の稚魚も捕獲しました。「こんなに小さな稚魚が、手賀沼でどうやって大きくなって行くのだろうか?」と思って研究を始めました。

 手賀沼の水辺の生物や生息する場所を調べたら、飼育して稚魚を成長させることが出来ると思いました。

 特に気になった、大型になるライギョ、タウナギの稚魚を捕獲して、生息する場所、餌となる物を調査しました。そして飼育する環境や餌を変えたり、実験をしました。

 実験した結果、順調に成長している魚もいますが、多くの稚魚が死んでしまいました。

 実験からわかった事は、成長させる事より、自然環境の中で生きていく難しさでした。

 大型の捕食魚が育つには、豊かな生物多様性がとても大事な事が必要だと思って発表する事にしました。

講評:

 自然の中で生き物がどのように生活しているかを知るのは,大変難しいことです。特に,動物はさかんに動くので観察自体が簡単ではありません。生き物を飼ってみることは,その生き方を知るためには良い方法ですし,あなたも実際に多くを学んだようですね。稚魚たちが死んでしまったことは残念なことですが,その命から学んだことをどう生かしたらよいのか,これからも考えてください。身近にいろいろな生物を観察する環境があるのは,すばらしいですね。まずは手賀沼にはどういう生物がいるのか,まとめてみることもおすすめします。(西田治文)

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PDFファイル 1.9 MB

3.手賀沼水辺の生物調査(8年目の研究と成果)~ハス全滅による生態系の変化~

  柏市立柏中学校 2年 大森瑛斗

発表要旨:

 私は、7年間手賀沼の水辺の生物や水性植物、水質等を調査してきました。8年目に入り、今年は突然、手賀沼のハスが全滅するという環境の変化があり、過去7年間のデータと環境の変化があった今年のデータと照らし合わせて比較した。 

 調査は、捕獲調査、水質調査、温度調査、目視調査を行い、比較した結果、ハスの全滅によって手賀沼の生態系に大きな影響を及ぼしたと思われる傾向が見られた事を発表します。 

講評:

 手賀沼のハスがほぼ全滅した現象に着目し、過去の貴重な調査結果の積み上げから検討を加えた奥の深い取り組みが秀逸です。急なハス群落の衰退によって手賀沼で何が起きているのか、過去のデータと照らし合わせて検討できるのは、これまで基礎的な情報を集めてきたからこそ可能な研究であり、これまでの地道な努力が身を結んだ貴重な成果といえます。調査を項目ごとに類型分けし、図表を用いて結果をわかりやすくまとめる工夫がなされている点も高く評価できます。

 ハス群落が原因だった沼底近くの貧酸素環境が、今後どのような変化を見せるかも興味深い点です。侵略的外来水生植物であるナガエツルノゲイトウやオオバナミズキンバイの異常繁茂がこれまでの観察結果にどのような影響を及ぼすかなど、さらなる発展的な継続研究に期待します。(林紀男)

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4.微生物の生存できる環境に関する研究

  芝浦工業大学柏中学高等学校 科学部 中学校2年 松本直也

発表要旨:

 僕は、どの池にでもいそうな微生物がどのような環境で生きられるのか調べました。塩分湿度の実駿では、0.5%より低い温度では生存率が90%となり、ほぼ全ての微生物が生存可能ですが、0.5%~1.25%の温度での環境下では5分間で半数が全滅、1.5%では全てで全滅となるため目視できる微生物にとって厳しい環境であることが分かりました。

 水温変化の実験については、40℃の水温で生存率が100%となり、ほとんどすべての微生物が生存可能となりますが、45℃前後での環境下では生存率が60%と減少し始め、5O℃を超える高温になると全滅し、目視できる微生物にとって厳しい環境であることが分かりました。また、10℃~0.6℃までの低温域では、生存率が100%となるため寒さには強く、ほとんどの微生物が生存可能であった。そこで、さらに温度を下げ、PETボトル内の水をすべて凍らせると10回の実験全てで全滅が確認するごとができたごとから、水の部分がすべて凍るまでは生存可能だということが分かりました。

講評:

 研究対象とした「どの池にでもいそうな微生物」が何なのか不明であることが課題として明示されています。実験方法に「肉眼で見える」とのことですのでワムシやミジンコなどでしょうか? 「後に生存状況を目視で確認しやすい大きさのものを選定」とありますが、対象生物として異なる種が混在している場合には、生物により環境への適応力が異なるので、検証結果に影響が及びます。どのような微生物についての検証なのかについて、虫眼鏡等による観察を経て推論するなどの試みがあれば研究の質をより高めることがきるでしょう。

 研究の取り組みとして、塩分濃度と水温というわかりやすい環境要因を選定し、その基準値の設定理由も説明しつつ研究を進め考察につなげている点が論理的で優れています。同じ条件での検証を10回繰り返す反復も盛り込み、再現性にも考慮し研究を構成している実験の進め方も理にかなった手法で高く評価できます。反復をとって検証した貴重な結果は、統計学の視点で考察加えると研究の完成度をさらに高めることが可能です。次なる課題として、温度適応力の暴露時間評価に取り組む点があげられており、研究の将来性も魅力です。(林紀男)

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5.アカハライモリのぬけがらはどこへいくのか

  芝浦工業大学柏中学校高等学校 科学部 中学校2年 根本 越

発表要旨:

 私は部内でアカハライモリを飼育しています。その中でアカハライモリを観察していると、何度か脱皮の瞬間を見ることができました。脱皮中のイモリは、まず頭から前足までの皮を地面の小石に身体をこすりつけながら脱ぎ、前足後ろからしっぽの先までを口に加えて脱ぎました。脱皮した皮はイモリが食べました。水槽内で見つかった皮がすべて破片で見つかったのは、この、イモリが脱皮後の皮を食べるという行為によるものだと思います。イモリは基本的に脱皮した皮をすべて食べ、皮が残らないようにしているようでした。イモリは脱皮後の皮をほかの餌よりも優先して食べる傾向があり、自分が脱皮した皮ではない皮もわざわざ奪いに来ていました。これからの観察では脱皮に関する資料を集めるとともに、前述した脱皮した皮を優先して食べる理由などを調べるため、脱皮した皮に似たものを水槽の中に入れ、それにイモリが寄ってくるか、などの実験をしたいです。

講評:
 アカハライモリの飼育を通して、その行動をよく観察した研究と言えます。温度条件や餌の量を調節した場合に、どのような頻度で脱皮が生じるか、脱皮した皮に気付くのは視覚によるものなのか、嗅覚によるものなのか、皮膚感覚によるものなのか、など様々な実験テーマが考えられます。また、イモリ以外にカエルやサンショウウオの仲間も同様に脱皮をし、その皮を食べることが知られています。イモリの場合と比較して、他の生物の脱皮行動に違いがあるか、その違いがあればどのような理由で生じているのかを調べてみるのも面白いかもしれません。今後の研究の進展に期待しています。(小賀野大一)

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6.洗濯洗剤を使った魚類の透明化について

  ドルトン東京学園中等部・高等部 理化学同好会 2年 黒﨑詩音・石井 月

発表要旨:

 骨格標本は、動物の成長様式や形を研究するために使われる。その作成方法は内臓や筋肉をナイフやピンセットで物理的に取り出し、さらに酸やアルカリなどで溶かして骨だけにする。そして骨から脂肪分を除いてから組み立てを行う。しかし、メダカのような小さな魚類でそのような作り方をすると骨をなくしてしまうことがある。そのため小型の魚では、骨をアリザリンレッドSで染めてからトリプシンや強アルカリで筋肉を溶かし、グリセリンで透明にした標本を作る。このような標本を透明骨格標本という。私はグリセリンの代わりに食器用洗剤を使うことで簡単に透明化する方法を発見した。この方法だと価格の高い高純度のグリセリンを使わなくて済む。しかし、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムといった薬品を使う必要がある。これらの薬品はアルカリ性が強く、皮膚についたり目に入ったりすると危ない。そこで強アルカリを使わないで透明骨格標本をつくる方法を探した。

 謝辞:本研究は日本教材学会2020年度 採択研究プロジェクト助成の一部を活用した。

講評:

 透明骨格標本はとても美しく、また普通は観察できない小さな生物の微細な骨格を観察できる、とても良い教材です。しかし高価な試薬や危険な試薬を用いなければならないので、学校での作成や利用は生物部などでの小規模なものや、高価な既製品を少数購入して観察する場合などに限られていました。皆さんによる一連の研究は、こうした状況を変え、どこの学校でも皆が透明骨格標本を観察できるようにするための貴重な知見を提供するもので、高く評価できます。今後は高価な試薬を使う染色などについても代わりの薬品が見つかるのではないかと期待しています。なお、研究で使われた洗剤「マジカ」は2020年春に新製品に切り替わっています。論文にする際には、成分表示や購入日など、製品の特定につながる情報も入れると良いと思われます。化学薬品と違い、成分の安定性が保証されていない点が難しいところですね。(斎木健一)

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7.柴犬由来ガン細胞のポータブル保冷温庫での増殖について

  ドルトン東京学園中等部・高等部 理化学同好会 2年 谷本直音

発表要旨:

 中学校の理科では細胞を学ぶが、ディッシュや細胞培養フラスコで継続的に培養される培養細胞は維持管理に多額の費用がかかるため、扱いたくても扱うことができない。特に、培養細胞の維持管理に必要な CO2インキュベーターは、その機械自体が高額であるだけでなく、二酸化炭素ボンベの定期的な交換が必要となり、維持管理費もかかる。この、CO2インキュベーターは、細胞から出てくる乳酸などの酸性物質によって培地が酸性化してしまい、細胞が増殖しなくなったり、死んでしまったりすることを防ぐ機能がある。この時、CO2インキュベーターでは培地のpHを一定にするために炭酸水素ナトリウムと二酸化炭素を利用する。具体的には培地に炭酸水素ナトリウムを加え、空気中の二酸化炭素を5%にして温度を37℃に保つようにしている。しかし、炭酸水素ナトリウムのかわりにヘペスという物質を使うことで、二酸化炭素のコントロールをなくすことが可能と考えられる。これが実現すると、培養細胞の維持管理費を抑えることができ、中学校で培養細胞を扱うことが可能となる。

 謝辞:本研究は公益財団法人双葉電子記念財団の青少年創造性開発育成事業の支援を受けました。

講評:

 動物細胞をCO2インキュベータではなく、ヘペスを用いてポータブル保冷温庫で培養するという研究で、実験に必要な培養のハードルを下げることを目的とした良い試みだと思います。中学生としてレベルの高い研究です。今回は、口頭発表ではなく限られた紙面での発表のため、詳細なことまで示すことが難しかったと思いますが、ひとつ質問するとすれば、ディフクイック染色によるwellごとの呈色の差は書かれておりますが、実際の細胞の増殖率はどの程度だったのでしょうか。これまでの方法との相違やコントロールとの比較が示されていると良いと感じました。

 「in vitro」の研究は先輩から後輩へ継続させることで、生じた課題や操作方法などが継承され、より発展した内容となっていくと思います。また、動物細胞の培養を行っている学校は少ないはずですので、他の学校への動物細胞培養の一助になることも期待できます。(永嶋幸夫)

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8. 市販保冷温庫で培養したマスト細胞の顆粒放出について

  ドルトン東京学園中等部・高等部 理化学同好会 2年 小泉 菫

発表要旨:

 アレルギーの研究では培養マスト細胞が利用される。この細胞はスズメバチの毒素など各種刺激物質によってアレルギー症状を引き起こす物質を放出する。これを脱顆粒という。脱顆粒を抑制する物質はアレルギーを抑える可能性があるので、脱顆粒を測定する実験ができれば、アレルギー薬を見つけられる可能性がある。培養細胞は普通、CO2インキュベーターで培養するが、この装置を学校で準備することは大変である。同好会のメンバーが家庭用保冷温庫で培養できることを見つけたので、これを使って培養したマスト細胞で脱顆粒が起きるかどうか調べることにした。

 今回の実験ではマスト細胞を活性化する「Compound 48/80」という物質で顆粒が放出されるかどうか調べた。

 謝辞:本研究は公益財団法人双葉電子記念財団の青少年創造性開発育成事業の支援を受けました。

講評:

 培養が難しいマスト細胞を家庭用の機器で培養できたことに驚きです。培養方法や細胞株の種類など、もう少し詳しい情報があればなおよかったと思います。脱顆粒の計測も、溶液の光の強さを界面活性剤処理と比較することで行っており、工夫が見られます。マスト細胞の密度がどのプレートでもほぼ同じであれば、この方法で良いでしょう。おそらく放出された酵素の活性を計測したと実験だと思いますが、実験に使った基質の種類や、何を計測したかわかれば、なおよかったと思います。今後の実験で最適な薬剤濃度が決まったら、色々な物質でアレルギー抑制効果を確かめれば面白いでしょう。身近な化学物質やいろいろな生物の抽出物にアレルギー抑制効果が見つかれば、専門家も驚く成果になるかもしれません。(朝川毅守)

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9. 冷蔵・冷凍によるキンギョの血球変化について

  ドルトン東京学園中等部・高等部 理化学同好会 2年 小原芽莉

 

発表要旨:

 私は血球に興味があり、とくに赤血球がなぜくぼんでいるのかその謎に迫りたいと考えている。そのためにはまず血球について研究する方法を作らなければならない。血球の研究方法はヘモグロビンの量を調べたり、白血球が細菌を捕食する能力を調べる方法のように働きを調べる他に、形や数を調べる方法がある。形や数は、血球プレパラートを顕微鏡で観察することで調べることができる。血球プレパラートは動物の一部を切ったり注射器で採血し、これをスライドガラスに広げて乾燥後、染色してつくる。非常に簡単な方法であり、これまでに何回かチャレンジしている。しかし、学校は忙しいので、すぐに血球プレパラートを作ることができないこともある。そこで染色や保管方法を検討することにした。ここでは各種染色方法の検討や生きたキンギョと冷蔵・冷凍したキンギョで血球変化について紹介する。

講評:

 赤血球のくぼんだ形に興味を持ったという研究動機がとても良いと思います。いろいろな生物の赤血球を、いくつかの色素で染色し、見え方を比較した今回の実験結果は、今後の研究に活用できるでしょう。今回の実験では、ブタとマアジで染まり方に違いがありました。それぞれの色素がどのような性質を持ち、何を染色しているか調べてみると良いでしょう。研究動機は、赤血球のくぼんだ形でしたが、今回見た生物の赤血球の形はどうでしたか。いろいろな生物の血液を観察して、染まり方の違いと形の関係が見られれば、面白いのではないかと思います。また、くぼんだ形の利点についても考えてみると良いでしょう。(朝川毅守)

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10.学校周辺のクズの分布と有効利用に関する研究

  ドルトン東京学園中等部・高等部 理化学同好会 2年 大村直輝・經廣慧汰・村山瑛久・玉置 光

発表要旨:

 私たちが通うドルトン東京学園は国分寺崖線上に位置している。この崖線は多くの既往研究で示されているように都心部には珍しい多様な生態系がある貴重な地域である。しかし、適切な管理が行われていないためにその多様性が失われる可能性がある。本校に隣接する崖線でもナラ枯れや葛の大量繁茂などが確認されている。

 本研究ではこのうち葛に注目し、その有効活用及び駆除について検討した。葛は日本だけでなく、海外でも大量発生しており地域生態系の破壊などの被害がでているが解決の目途が立っていない。一方で、葛は葛根湯やくずもち、葛布など様々なものに利用されてきた。私たちはその中の葛布に注目した。日本では静岡の掛川市、海外ではラオスなどで葛の繊維を利用した布づくりが行われている。私たちはまず学校周辺の葛の生育状況を確認し、分布地図をつくった。つぎに同好会活動として可能な、葛から繊維をとる方法を検討した。この一連の結果について報告する。

講評:

 身近な植物に注目し、その分布状況を実施に調査したのはとてもよいと思います。きっと普段は気にも留めていなかったクズという植物の生命力を実感できたことでしょう。また、クズの除去のために植物の三大栄養素であるカリウムの利用を発想した点はこれまでの学習が活かされていてよいと思います。硝酸カリウムに限らず、化学物質を環境中に散布する場合、安全性や他の生物への影響などに十分に配慮することが必要です。高濃度の硝酸カリウムを地面に散布する前に、厚生労働省の情報などを利用して安全性や環境への影響を十分に確認してください。(尾崎煙雄)

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11.鳥類における叉骨と胸骨の癒合について

  千葉県立千葉高等学校 生物研究部 2年 有川慶彦

発表要旨:

 鳥類の胸部には、「叉骨」という骨が存在する。これは哺乳類における両方の鎖骨が中央で癒合し、1本の骨となったもので、一般にU字またはV字型を成す。翼の上下運動に合わせ、バネのように変形し、飛翔時の呼吸の補助的な役割を担っていると考えられている。また、胸部に空間を確保し、呼吸循環機構の一部を構成する、鳥類にとってとても重要な骨である.

 筆者は、叉骨と胸骨の関係性、即ち、癒合形態が種によって異なることを確認した。例えば、スズメやアオジなどは叉骨と胸骨が癒合せず、離れているが、ペリカン類・ツルでは叉骨と胸骨が完全に癒合し、1つの骨のようになっている。他にも様々なバリエーションがあるように感じられた。

 そこで今回、鳥類における叉骨と胸骨の関係性の差異を調査することにした。研究にあたって、2通りの調査を実施する。1つは、標本データベースの標本・CT画像を参照し、リストを作成して傾向を考察する.標本データベースは山階鳥類研究所ものを使用している。2つは、解剖による筋肉の観察である。学校にて採集した個体・海岸にて取得した漂着海鳥・購入したニワトリを用いた。未だ進行途中ではあるが、筋肉の終始の確認、それぞれの筋重量、心臓の重量を測り、種間比較を行う。

講評:

 胸骨の形態が種ごとに異なることに気づき、その傾向を科ごとに大別できたことは、素晴らしい成果です。多くの種について検討するために公開されているデータベースを活用する手法や、多くの引用文献を論拠にして先行研究や課題を整理する姿勢も、研究の進め方として優れています。

 骨格だけでなく筋肉にまで考察の幅を広げるために、解剖など複数のアプローチを織り交ぜて疑問に迫られています。今後さらに、野外や動物園・水族館で、翼を使った飛翔や遊泳などの行動観察にも取り組むと、進化と行動と形態とを結びつけるアイデアが湧くかもしれません。(平田和彦)

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12.水生カメ2種の行動比較

  千葉県立長生高等学校 サイエンス部生物班 1年 藤平望羽・杉井遥紀・青木洸人・渡邉雄太

発表要旨:

 私たちは学校の近隣にある茂原公園、昭和の森公園、泉谷公園の池にいるカメの捕獲し、体長測定や、防御姿勢を取ってから動き出すまでの時間(復帰時間)の調査など行ってきた。昨年度、ミシシッピアカミミガメよりもクサガメの方が早く復帰し、また、ミシシッピアカミミガメは、複数の他個体と向かい合わせた環境(集団)でいるときの方が、復帰時間が短いことを示した。

 本年度は、そのデータの数を増やし、統計的な分析を行った。また、水深50cmの水槽に防御姿勢の個体を入れ、水中での復帰時間についても調べた。水中では陸上よりも有意に復帰時間が早いことがわかり、そこからさらに、動き出してから水面に顔を出すまでの時間を測定した。水中での復帰時間と水面に顔を出すまでの時間について、雌雄別に、防御からの復帰という「解放」後の動きについて、水中か水面か、どちらに向かうかを分析した。

講評:

 実験結果を統計処理し有意差があるかを明らかにしたことで、とてもわかりやすい研究になっています。実験に用いたカメ類2種の体長には種間や雌雄による違いが知られていますが、結果はいかがだったでしょうか。また、展望に書かれていたように、カメ類の場合、行動と温度条件の関係はとても重要です。温度管理をした上で、同様の実験を是非行ってみてください。アカミミガメとクサガメでは、本来の生息地の環境が大きく異なります。今後、天敵や食性を加味した考察ができる結果が得られるといいですね。身近な生態系である公園の池のカメを用いた研究であり、継続的な活動を期待します。(小賀野大一)

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13.比較でわかる外来カメ3種の特徴

  千葉県立長生高等学校 サイエンス部生物班 2年 大木帆貴・原 貴都

発表要旨:

 身近な生物であるカメに着目し、体の特徴と行動を調べることを目的に実験・観察を行った。

 まず、ミシシッピアカミミガメ(以下、アカミミ)、クサガメ、カミツキガメ(以下、カミツキ)、ニホンイシガメについて、作成した骨格標本の各部位の大きさを比較し、カミツキは首や四肢が長い、アカミミは腹甲が長いという顕著な特徴を見いだした。次に腹甲と体の厚みを比較すると、カミツキは腹甲が十字型のため四肢の可動域が広いこと、アカミミは体長が小さくても厚みがあることを見いだした。最後にアカミミとクサガメでその防御姿勢からの復帰時間を比較したところ、クサガメが有意に早いという結果を得た。

 これらの結果から、敵に対して、カミツキは高い攻撃性を示す、アカミミは身を守る、クサガメは素早く動く戦略で対応していると考察した。今後、個体数が少ないイシガメでの動きのデータを調査し、体の特徴と行動特性との関連性をより詳しく調べたい。

講評:

 ニホンイシガメの減少に関心を示し、千葉県に定着した3種の外来カメ類との形態や行動の違いに係わる研究は、イシガメの保全を考える上でとても重要な研究と言えます。また、千葉県は全国で最もカミツキガメの生息数が多く、標本資料を多量に入手できることもあり、この種を加えた研究成果も十分に期待されています。研究結果の中では、骨格標本を用いた比較で腹甲長と斜めの比が示されていますが、股甲板幅などを使わなかった理由が知りたいと思いました。カメ類の形態は、雌雄差があったり成長に伴う過程で縦横の比率が変化したりする種も多いので、今後、調べてみてください。(小賀野大一)

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14.クロベンケイガニの生活史に関する研究

  千葉県立大原高等学校生物部 2年 青木 陸・斎藤 翔・1年 麻生真央

発表要旨:

 千葉県の保護生物であるクロベンケイガニの生活史はまだ十分に解明されていない。そこで、その生活史全体を明らかにしようと考え、2016年から研究を継続してきた。

 いすみ市の塩田川において、最もクロベンケイガニが多く生息している3カ所で採集調査を行った。

①採集は目に付いたものを無作為に捕獲し、石をひっくり返したりはしたが巣穴を掘り返すことはしなかった。甲幅、雌雄、抱卵の有無を測定・記録し、放流した。結果、上流地点ほど大きい個体が多かったことから、生育するにつれて上流側に移動するものがいるのではないかと考えられる。捕獲したカニにオスが圧倒的に多い傾向は変わらないが、その理由は不明である。

②プランクトンネットを使って幼生の採集を試みた。結果、メガロパ幼生を川の中流で確認できたことから、ゾエア幼生は河口付近に到達(または到達するまでに)してメガロパ幼生に変態し、川を遡上・遊泳して成体に変態することができると考えられる。

講評:

 クロベンケイガニは県内各地の河川下流域でごく普通に見られますが、その生活史に不明な点の多いカニです。この研究はクロベンケイガニの未知の部分を解明するために継続されてきたもので、2020年の研究では、メガロパ幼生期から着底直後の稚ガニまでの行動が示唆されるなど、興味深い成果が得られました。今回は、河口から調査地点までの護岸状態や堰の有無など、塩田川の非生物的環境について触れられていませんでした。性比の偏りやメガロパ幼生の遡上と無関係ではないと思われるので、今後、詳細な環境の記述を加えてみてはいかがでしょうか。(奧野淳兒)

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15.ヒヌマイトトンボの生態調査

  千葉県立国府台高等学校 生物部 2年 小野颯馬・1年 小倉佑哉・速水大知・岡本和也・田積海翔・石田颯汰

発表要旨:

 今年度のヒヌマイトトンボの生態調査はルート調査、定点調査、水質調査、ゴミ調査の4つを行った。

 ルート調査では昨年度はオスメスあわせ5匹見られたが、今年度はオス1匹のみしか見つからなかった。定点調査ではオスとメスがそれぞれ4匹ずつ見られた。今年度では定点調査のほうが多く見つかった。このような結果になった主な理由としてはヒヌマイトトンボの生息域の変化だと考えられる。

 今年度の定点調査では、調査するポイントを前年度までと変更し行った。前回の調査では、クモ類やカマキリ類などの天敵が多く確認され、ヒヌマイトトンボがあまり確認できなかった。よってヒヌマイトトンボは生息域を変化させているとの仮説が立てられる。しかし定点調査のポイントを変更したのは今年度からなので、データの蓄積がない為この仮説を証明することができない。よって来年度では、今年度の定点調査の調査地点を含めた複数の場所での調査を行いたいと考えている。

講評:

 2014年からの継続調査は貴重な資料となり、ヒヌマイトトンボの保護に役立つと思われる立派な発表です。トンボ類は周りの植生や捕食者の大きな影響を受けます。2020年は定点観察の場所を変えて、数が増えたと報告されていますが、その数も示して欲しかったと思います。またトンボにとってはヨシ原などの植生が最も大切です。定点周辺の植生また、生息していない場所の植生等の比較が必要です。調べられていると思いますが、発表には是非記載してください。また天敵はクモ類とだけ書かれているのがありますが、せめて造網性クモ類と徘徊性クモ類と分けると良いでしょう。水質等は良く調べられています。これからも生態調査を続けて、ヒヌマイトトンボの保護に役立てられることを期待しています。(浅間 茂)

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16..都市地域に生息するキジの分布と生態について

  千葉県立柏中央高等学校 科学部 3年 大平夢希

発表要旨:

 松ヶ崎地区では春になると繁殖期を迎えたキジの姿を見たり、鳴き声を聞くことができる。しかし、この地区周辺は国道などの大通りや住宅地に囲まれており、そこに僅かな自然が残っているだけである。なぜこのような場所にキジが生息しているのか。また、松ヶ崎地区はキジの生息地として適した環境であるのか疑問に思い、本研究を行った。

 2019年4月から8月にかけて松ヶ崎地区のキジ個体群の調査を行った結果、11カ所のなわばりを確認することができた。この地区一帯は、もともと緑地が広がるキジに適した生息地であった。しかし、人間の活動が拡大される中で,徐々にキジの生息地が狭くなっていった。その結果、キジは現在残った松ヶ崎地区の限られた自然環境を生息場所や繁殖場所として利用するようになったと思われる、キジと人間が共存するために、この場所にキジが生息していることを認知した上で、残された生息地を保護していくことが大切なのではないかと考える。

講評:

 学校周辺の身近な環境と生物の関係を調べることはとても大切なことです。キジの生活を通してキジの眼で身近な環境と生物を見直すことができるからです。昭和20年代から現在までの環境の変化を調べ、調査地域の柏市松ヶ崎地区の自然の変遷とキジとの関係やキジが生息するのに適した環境の考察はたいへんよくまとまっています。調査期間中側溝に落ちてしまった雛を心配する母鳥が車との事故に遭いました。これについてキジの生息や飛び出しを知らせる看板を設置する提案はとても良いと思います。その他に側溝に落ちない工夫や落ちてもそこから雛が上に上がれる工夫もぜひ提案してみてください。1羽1羽のキジの羽色の違いをよく観察し、正確に個体識別をして調査するともう少しはっきりとしたなわばりがつかめると思います。千葉県でも減少傾向にあるキジの生態を今後も継続研究してください。(越川重治)

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17.ラン科植物の無菌培養に関する研究 ~保護・増殖を試みたラン科植物の紹介~

   中央学院高等学校生物部 2年 高橋蒼大郎・1年 千葉喜翔・石川真都・飯沼陽季

発表要旨:

 私達中央学院高等学校生物部は、創部以来44年間にわたり「ラン科植物の無菌培養に関する研究」を継続してきた。現在までに無菌培養により保護・増殖を試みたラン科植物は、シュンランをはじめ、絶滅危惧種Ⅱ類のアサヒエビネ、絶滅危惧種IA類のホシツルラン、準絶滅危惧種のサギソウ、絶滅危惧種IB類のムカゴトンボなどがある。  

 現在の活動はアサヒエビネの種子の状態を調べる研究の他、成東・東金食虫植物群落に自生しているサギソウ、ムカゴトンボについての発芽・生育に関する研究を実施している。

 今年度、私たちが無菌培養により増殖させたムカゴトンボが成東・東金食虫植物群落のボランティアの方々により順化に成功。その後開花し、試験的な受粉にまで至り、目標としている現地への植え戻しに一歩近づくことができた。今回の発表は今までに私達が保護・増殖に取り組んできたラン科植物について紹介する。

講評:

 44年間にわたり継続的に行われている、ラン科植物の無菌培養に関する研究の成果報告です。森林性のランだけでなく湿地性のランなど、異なる生育環境をもつ分類群で培養に成功しているだけでなく、培養個体の開花にも成功しており、保全活動への貢献が期待できます。同じラン科植物でも、生育環境などの違いによって、培養に適した条件は異なると思います。研究発表の際には、培養条件や、播種から発芽までの期間、葉の展開時期などの各種データを示すといいでしょう。分類群ごとの特徴を比較できるだけでなく、発表会での議論の幅も広がります。今後の継続的な研究と新たな成果を期待します。(水野大樹)

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『千葉県いきものかんさつガイド』表紙
2018年2月刊行の千葉県生物学会70周年記念出版『千葉県いきもの かんさつガイド』(たけしま出版)の表紙