2022年度 第75回 児童生徒生物研究発表大会 (2022年8月~)

2022年度 第75回 児童生徒生物研究発表大会も参集ではなく、当サイトで発表内容を公開することで行うことになりました。このページでは一覧と要旨に加えて、発表内容のPDFファイルを掲載しています(2022年11月18日)。学会メンバーによる講評を掲載しました(2022年12月27日)

2022年度 第75回 児童生徒生物研究発表大会 発表一覧

 

1.ネジバナの研究2019-2022 ~新しい送粉者と新しい送粉方法の発見~

   千代田区立九段小学校 3年 熊谷緋沙子

2.市川学園校内のセミについて

   市川学園 生物部 中学1年 遠山敬梧 篠田蒼士 薄井小太朗 高野ひなた

3.ロードキルを防ぐ 

   千葉県立長生高等学校 ロードキル対策チーム 2年 平本詩音 北根孟実 3年 渡邉雄太 瀧口和都 上田柊翔

4.カメの行動・利き足調査

   千葉県立長生高等学校 サイエンス部生物班 2年 野村明希人 片桐右京 清原敦希 伊熊咲奈 九鬼理子

5.ナメクジの忌避性について~ナメクジの生態からナメクジ駆除を目指す~

   千葉県立長生高等学校 理数科 2年 中山七海

6.ニイニイゼミがまとう泥について

   千葉県立佐倉高等学校 生物部 1年 山﨑陽南

7.サザンプラティフィッシュの攻撃性と食餌の関係

   千葉県立佐倉高等学校 生物部 2年 原 柊太

8.ジョロウグモの観察から得られた脚の使い方に関する考察 

   千葉県立佐倉高等学校 生物部 2年 内山晴太

9.有機溶媒を用いたトンボ標本の変色を抑える方法

   千葉県立佐倉高等学校 生物部 3年 岩井太陽

10.魚の色覚による記憶と行動への影響を確かめる

   千葉県立検見川高等学校 生物同好会 2年 山津田航太  

11.千葉ポートパークの二枚貝類の解明!

   千葉県立千葉北高等学校 生物部 2年 井戸遼太郎 大石一樹 大塚日愛 五十嵐奏太 石濱龍之介 久保柊馬 下田青葉 三浦昇真 山田華穂 若林優羽      

12.太東海岸の季節による生物の変化

   千葉県立茂原樟陽高等学校 科学部 3年 白川道威 小倉夏樹

以上

2022年度 第75回 児童生徒生物研究発表大会 発表要旨および発表内容PDFと講評

1. ネジバナの研究2019-2022 ~新しい送粉者と新しい送粉方法の発見~

  千代田区立九段小学校 3年 熊谷緋沙子

 

2019から2020年はネジバナにねじれとまっすぐ両方ある理由を、花の見え方や受粉率を比べて考えました。図鑑や論文はハチがネジバナを受粉させていると書いていましたが、見た目を気にしない虫が目立ちにくいまっすぐネジバナに来ていると考えて2021年と2022年は721時間、67058枚の写真を撮影し夜に来ていた昆虫を調べました。そうしたら蜜を吸わないカメムシの仲間やダンゴムシが花粉塊をつけている様子が見られました。ダンゴムシは明け方に大量に来て花びらを食べて花粉塊を露出させてから体につけていました。ダンゴムシが本当に受粉させられるか確認するため、細かい網の中にネジバナとたくさんのダンゴムシを入れてみたら実がふくらみました。

この研究から、蜜や花粉を食べない虫でも花びらを食べに来ることで受粉させることがあるかもしれないと思いました。もしそうなら、花を食べる虫に送粉してもらえるようネジバナは食べやすい花に進化したのかもしれないと思います。あとネジバナの花の中にはたくさんのアザミウマがいたのでそれを狙ったカメムシなどが花に入って受粉させているかもしれないと思いました。

 

[講評]

ネジバナの研究の続報を楽しみにしていました。今年もおもしろい発見がたくさんありましたね。ダンゴムシがネジバナを受粉させている可能性を示した実験はすばらしいと思います。実験に用いたオカダンゴムシは外来生物なので、ネジバナがオカダンゴムシに合わせて進化したとは考えにくいのですが、同様に花びらを食べるコオロギやコガネムシも受粉に貢献していることを予想させる点でとても興味深いと思います。さらに、アザミウマを食べる肉食昆虫やクモまでが受粉に関わっているかもしれないという発見もすばらしいと思います。上と下から見たときの花色が違いについては私は考えたことがありませんでしたが、言われてみるとたしかにミズヒキと同じパターンですね。昼と夜の見え方も含めてその理由が解明できたら大発見だと思います。さらなる探求が楽しみです。

(尾崎煙雄)

 

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PDFファイル 1.7 MB

2. 市川学園校内のセミについて

  市川学園 生物部 中学1年 遠山敬梧・篠田蒼士・薄井小太朗・高野ひなた

 

普段通学している市川学園の校内にいるセミについて、詳しく調べることを目的として、2022年6月~8月に校内でセミの抜け殻を採集し、種類別の個体数をまとめた。

約400個集めた中で、アブラゼミ(200個)、ミンミンゼミ(184個)と多く採集された。また、ニイニイゼミやヒグラシも採集できた。このことから、市川学園がある場所の土が、市街地ほど乾燥した土ではないが、樹林地ほど湿った土でもないことを示している。また、従来クマゼミが発見されない地域でクマゼミが採集されたことは、市川学園周辺が温暖化していることを示している。

触角によってセミの抜け殻を分別したが、触角のついていないもの、保管が乱雑で触角が取れてしまったものなどがあった。次からは、保管を丁寧に行い、触角が取れることのないようにしていきたい。また、植物との関係や、個体ごとの大きさのデータもとっていきたい。

 

[講評]

私が千葉市で蝉取りを楽しんだ60年ほど前は、まずニイニイゼミが鳴き、ついでアブラゼミなど、ツクツクホウシで秋の訪れを知りました。ミンミンゼミはずっと少なく、もちろんクマゼミはいませんでした。今は出現の順番があいまいになり、種の比率も変わりました。初鳴きも昔は7月20日ごろでしたから、温暖化の影響を実感します。抜け殻調査は、全国にある学校単位で実施可能で、広範で継続的な環境評価方法の一つだと思います。全国統一規格のような情報の共有ができると貢献度が高まりますから、そういう活動にも参画できるとよいですね。一方で、生物の調査は規格とは別の独自の観察にも大きな意味がありますから、あくまでも皆さんの観察眼は大切にしてください。大変な作業にはなりますが、出現時期がある程度わかるように、採集日を記録するとよいです。一回の調査でも日にち情報は必要です。

(西田治文)

 

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PDFファイル 674.3 KB

3. ロードキルを防ぐ

千葉県立長生高等学校 ロードキル対策チーム 2年 平本詩音・北根孟実 3年 渡邉雄太・瀧口和都・上田柊翔

 

道路で動物が轢死する事故(ロードキル)は私たちの身近でよく観察されている。ヒトと野生生物とが共存できる環境にする1つの取組として、ロードキルを減らす事を目的にし、まず、千葉県全体でどれぐらい起きているのかを調査した。

令和2,3年の4月~5月に県内自治体の問い合わせフォームを利用して、得られた回答からロードキルの発生状況データをまとめた。令和2年度データ分析では人口に差がある浦安市と匝瑳市とで報告件数が多かったため、人口と報告件数に相関がないと考え、データの質で分類し、分析することにした。月別、種別の記載があるデータを分析すると、ネコおよびタヌキにおいて、報告件数がピークとなる月は、繁殖期または親離れの時期が重なっていることがわかった。令和2年度と令和3年度とでその傾向はほぼ一致していた。

各自治体からの回答は自治体ごとだけでなく、年度ごとでも変化している事から、県全体で統一した記録様式の作成など、一体となって取り組める仕組み作りなど提唱したい。


[講評]

自治体の記録頼みの調査ですから、まず対応の有無に始まって情報の内容と質、継続性の有無など最初から異なる要素から判断することになりました。これは致し方ないことで、それを覚悟で調査をしたことで、生物学的な課題だけでなく社会的な問題点も見えてきました。自治体間での統一した調査項目や方法、継続性が確立していないことは、千葉県全体での生物多様性管理における問題があることを示しました。都市部でのネコと分布の広いタヌキの情報が偶然多くなりましたが、被害のピークと季節行動との比較はまだ十分とは言えません。しかし、コメントしきれないほどの課題によく挑戦しました。

(西田治文)

 

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PDFファイル 2.3 MB

4. カメの行動・利き足調査

  千葉県立長生高等学校 サイエンス部生物班 2年 野村明希人・片桐右京・清原敦希・伊熊咲奈・九鬼理子

 

茂原公園では、ミシシッピアカミミガメ(以下、アカ)と、クサガメがよく観察される。2種の行動特性について先輩と調査している際、利き足があるような四肢の使い方の偏り(利き)の疑いが生じ、それを調べる実験を行った。

甲羅を地面に接する「仰向け」から、動きやすい「腹ばい」へ復帰する際の回る方向を調べ(実験1)、次に実験1の結果と逆方向に5°傾けた台で回る方向を調べた。アカでは実験1,2ともに左方向が多かった。クサガメでは実験1では右、実験2では左方向の個体が多かった。実験1と2を両方行うとカメを長時間拘束してしまうため、実験3では復帰ではなく、初期動作の頸の運動だけを調べた(実験3)ところ、クサガメでは右回りに動くための頸運動の個体比率が多く、実験1結果と矛盾しなかった。

今回の結果からは「利き」があるかどうかは個体数も少なかったために判断できないが、今後、足ではなく頸、尾などの別部位の利きと合わせて調査する。


[講評]

これまでの研究から人間以外の動物にも利き手や利き足があることが知られています。採餌の際に手足をあまり使わないカメで、起き上がり行動の回転方向に着目して調査したユニークな研究いえます。結果やまとめの解説を充実させると、よりわかりやすい内容になったかと思います。

実験では、特にクサガメは背甲に顕著なキールがあるので、水平を保つのに苦労したことでしょう。カメの種や性による違いで利き足がありそうな結果も得られていますが、経験や環境によるものなのか遺伝的な違いによるものなのか、興味深いです。今後は再現性の確認を行うとともに、他地域の個体を用いる、孵化幼体を用いる、など新たな実験を計画してはいかがですか。研究の進展に期待します。

(小賀野大一)

 

 

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PDFファイル 1.4 MB

5. ナメクジの忌避性について ~ナメクジの生態からナメクジ駆除を目指す~

  千葉県立長生高等学校 理数科 2年 中山七海

 

小中学生の時に4年間ナメクジの研究を行って気づいたことは、ナメクジの殺虫剤にはたくさんのバリエーションがあること、また、身近な生き物にも関わらず道の部分が多いこと。そこで、ナメクジの生態の解明によって、農作物の被害とともに殺虫剤使用料も減らせるのではと考えた。

本研究では、まず、ナメクジがどのくらいの明暗を好むのか実験を行った。結果は、ほとんどのナメクジが夜間と同じ暗さを好んだ。次に冷温源(10℃)と熱源(40℃)からの逃避行動を確認したところ、21℃~23℃の地点まで逃避することが確認できた。統計的な検定によって高温からの逃避する地点の温度は冷温からの逃避時より有意に高い傾向が見られた。片側を冷温、もう一方を熱源にした実験結果と比較しても、高温からの逃避と比較すると同様の傾向が見られた。これらの結果を基に季節ごとの移動の傾向を推定し、効果的なナメクジ駆除手法を考えていきたい。


[講評]

農薬を使わずにナメクジを駆除したいという動機により,ナメクジが好む環境を明らかにし,一網打尽にしようという発想がとても良かったです.そのためにナメクジが好む明るさと温度を明らかにするための実験計画も工夫されており,特に明るさと気温を同時に見ることができる二次元の実験装置はとても創造的だと思います.冷たいところから逃避する場合と,熱いところから逃避する場合で,移動する場所の温度が異なるというのも興味深く,この両方の実験を比較しようと思った発想もとても良かったです.それぞれの実験も10回繰り返し行い,統計的な処理や有意差の検定も行っていて,全体にわたりこれといった欠点もありません.今回は明るさと温度の二つを調べましたが,湿度や化学物質などでもナメクジが好む条件があるかもしれません.今回用いた実験装置を少し工夫すれば様々な環境条件について同じような実験ができると思います.今後の進展を楽しみにしています.最終的にナメクジを一網打尽にできる装置ができると良いですね.

(朝川毅守)

 

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PDFファイル 1.1 MB

6. ニイニイゼミがまとう泥について

  千葉県立佐倉高等学校 生物部 1年 山﨑陽南

 

セミには様々な種類がいるが、体表に泥を付けるのはどうしてニイニイゼミだけなのだろうという疑問を持った。

泥をまとう意義の解明につなげる研究として、まずはニイニイゼミに付いている泥は単なる泥なのか、あるいは分泌物などと混ぜたものなのかというところから考えることにした。泥が体表にしっかり付着している様子は、単純に泥が塗られたものではないのではという疑念を抱かざるを得ない。泥がしっかり付着する理由として、殻の表面構造との関係だけでなく、泥そのものにも秘密があるのではないかと思った。そこで顕微鏡で泥を観察し、棲息地である地下の泥との比較をした。また、酸やアルカリ、燃焼など様々な実験を通して泥の謎に迫った。


[講評]

ニイニイゼミだけが抜け殻に土をつける点に注目し,調べようと思った着眼点がとても良いと思います.ニイニイゼミだけが出す物質があるのではないかという仮説を立て,抜け殻に付着した土と,生育地の土の性質の違いを,次亜塩素酸ナトリウム溶液,過酸化水素水,水酸化ナトリウム溶液などの水溶液との反応の違いや,加熱した時の色の変化の違いから導き出しました.この実験計画や考察も良く考えられており,とても良かったと思います.次亜塩素酸ナトリウム溶液や過酸化水素水を使った理由があると思いますが,発生した気体が何であると予想され,それがどのような性質を意味するか,もう少し考察できるとなおよかったと思います.加熱した時の色の変化の違いから,セミについた土の方が有機物が少ないと考察できましたが,抜け殻についた土と,比較した生育地の土が,もともと同じものであったかどうかは確証がないので,ニイニイゼミの影響かどうかはもう少し調べる必要があるでしょう.今後の展開に書いたように,幼虫の捕獲と飼育ができたなら,抜け殻についた土と飼育に使った土でも同じようなつがいがあるのか調べると良いでしょう.

(朝川毅守)

 

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PDFファイル 263.0 KB

7. サザンプラティフィッシュの攻撃性と食餌の関係
 千葉県立佐倉高等学校 生物部 2年 原柊太

 

魚同士のつつき合いの原因としては、オスがメスに対して交尾を迫るものや、個体同士の縄張り争い、エサの取り合いなどが考えられている。

しかし、自宅で熱帯魚を飼育している時、魚がエサを食べ終わったタイミングでつつき合いが多発していることに気づき、しかもそれが同性同士、もしくは異種間で起こっていることから、つつき合いの原因として、上に示した原因の他にも、エサを食べたことによる何らかの状態変化が関係しているのではないかと疑問を持った。

そこで、雌雄の判別が比較的熱帯魚の中でも容易な上、安価であるサザンプラティフィッシュを用いて、与えるエサの条件を変え、その後の行動を観察した。


[講評]

サザンプラティフィッシュ等が餌を食べた後に攻撃性が高まるという興味深い行動は、飼育する中でしっかりと観察しなければ気付けない行動であり、このことに気付いたことが、まず素晴らしいと思います。今回の研究はそのことを科学的に証明するためのもので、攻撃性の有無について証明するために、条件制御に注意を払っているところも良いと思います。一方で、攻撃行動が餌をやる前と後で変化するのかについての対比実験も必要であると考えます。餌を与えた後に攻撃行動が増加することが確かめられた後は、餌の量を変えたり、食後何分まで攻撃行動は続くか、空間の大きさや密度によって攻撃頻度が変化するか等を調べることによって、攻撃行動の有無を確認できるだけでなく、その原因に関する検討もできると思います。発展性のある面白い研究だと思いますので、研究を継続されることを期待しています。
(早川雅晴)

 

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PDFファイル 1.7 MB

8. ジョロウグモの観察から得られた脚の使い方に関する考察

  千葉県立佐倉高等学校 生物部 2年 内山晴太

 

円網を張るクモの歩き方にいては、基本的に縦糸を伝って歩くと言う説が主流である。しかし、クモを観察していると横糸を掴むことが少なくないように感じる。そこで、なぜクモは細い糸で出来た網の上を粘着することなくスムーズに歩けるのか、また、なぜ不安定な網の上で体のバランスを制御できるのかということにも疑問を持った。

そこでクモの脚の動きや役割を確かめるため、円網を張るクモの一種であるジョロウグモの4対の脚の動かし方や使い方を詳細に観察し、どの脚がどのような役割を果たすことでスムーズに歩くことができているかを検討した。

また、ジョロウグモが甑にいるときと、網上を歩いているときのそれぞれの場合における脚先の位置や糸の掴み方を観察し、その結果をもとに考察することで不安定な網の上で体のバランスを制御する仕組みを考察した。


[講評]

ジョロウグモを長期間に渡ってよく観察・研究してまとめています。ジョロウグモは以前には、アシナガグモ科で、それからコガネグモ科、ジョロウグモ科に変わりました。またコガネグモ科に戻るような方向にあり、特異的なクモです。下を向いていると後2脚で体重を支え、前2 脚が自由に使え絵網の感知能力を高めていると仮説を立てて、ジョロウグモの網構造や爪の構造などをよく調べて的確にまとめています。何故ジョロウグモが、第4脚でぶら下がるのかは、日向の中に網を張るジョロウグモの体温調節のためではないかという点も考慮に入れて、生態観察を進めてください。オオシロカネグモなども太陽の光を下げるためぶら下がります。今後他の円網を張るクモと比較しながら、研究をさらに発展させていくことを願っています。
(浅間 茂)

 

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PDFファイル 309.9 KB

9. 有機溶媒を用いたトンボ標本の変色を抑える方法

  千葉県立佐倉高等学校 生物部 3年 岩井太陽

 

私は昆虫採集を好み、幼い頃から現在まで専ら昆虫を捕まえて標本の作製を行ってきた。そんな中、トンボは死後時間が経過すると脂や筋肉が酸化することで体の色が変化してしまうことを知り、これを少しでも抑えることはできないのかと考え、今回は特に参考文献で紹介されていた有機溶媒を用いた方法について研究することにした。 

予備実験として、参考文献で紹介されていた方法のうちアセトンを用いたものを再現し、有機溶媒の処理(アセトンへ1時間浸ける)の有無による変色の度合いを目視で比較することで、その効果性について確認した。本実験では予備実験の処理の他に、注射器を用いてアセトンを体内へ注入するという処理を追加し、それぞれの処理を組み合わせながら行ったものを比較することで体内部の筋肉や脂による変色の影響の有無を調べた。 

その結果、予備実験ではアセトンによる抑制効果を確認することができた。本実験においては、両方の処理を行ったものが最も抑制効果を示したことから、変色には体内部による影響もあることが考えられた。


[講評]

昆虫標本の退色防止には、多くの人が経験を重ねながら取り組んできたことだと思います。昆虫の種類や体の部位、発色のしくみにより、退色防止の方法は変わってくると思われますが、基本的には体内の有機物の腐敗や酸化などの化学反応の進行の抑制が考えられますね。今回は、2種のトンボの胸部と腹部について、文献事例をもとにアセトンを使った実験を行なわれています。実験処理の理由などが細かく書かれており、科学的な方法を踏まえた丁寧さが伝わってきます。結果は、目視による色の変化の確認で導かれていますので、胸部と腹部を拡大した画像を使うと見やすいかも知れません。また、撮影条件統一のため、色指標を一緒に撮影しておくことも考えられます。トンボの胸部、腹部の退色防止にはアセトンによる脂肪の酸化抑制が効果的であるとの結論に至っていますが、今後の展望にも書かれているように、さらに研究を深めていかれることを楽しみにしています。
(永嶋幸夫)

 

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PDFファイル 311.9 KB

10. 魚の色覚による記憶と行動への影響を確かめる

千葉県立検見川高等学校 生物同好会 2年 山津田航太

 

普段飼育しているモツゴが、給餌の時に餌を与えているスポイトを突く行為を繰り返していた事から、色覚を持つ魚類が人間が信号機の止まれ進めを色で覚える様に、特定の色と物事を結びつけて記憶をし、それによって魚自身の行動に影響を与えることがあるのではないか、という疑問が湧きこの研究を行った。

実験ではモツゴを飼育しながら、与えている餌と同様の色を付けた割り箸と手を加えていない割り箸を水槽内に沈め、モツゴの反応を確かめた。

また、発展並びに仮説の補強として、記憶した色の冗長度の範囲を調べた。

2つの実験の結果から、モツゴは餌の色を記憶し、その記憶がモツゴ自身の捕食行動に影響を与えている事が確かめられた。

今後は魚の記憶保持能力などについても発展して調べていきたいと考えている。


[講評]

魚を材料とした行動の研究はこれまでも行われてきており、例えば古典的なものとして、ティンバーゲンは赤色が鍵刺激となっていることを示しています。本研究の場合は先天的な行動ではなく、赤色を学習し採餌行動と結びつけるという内容であると思います。実験の結果、確かにモツゴが赤色を認識し反応することは示せたと思います。しかし、餌であるアカムシよりかなり大きな割り箸を使っているため、発表用パワーポイントを見る限りでは反応(つつき行動)が採餌行動なのか、それ以外の行動(例えば縄張り行動)の可能性がないのか分かりませんでした。対照実験としては、アカムシと同じ形で違った色のものへの反応を調べた方が良かったのではないでしょうか。また、アカムシを食べていない(赤色の学習を受けていない)モツゴで同様の実験をし、比較することができれば、より説得力のある面白い結果が得られると思います。今後の研究に期待します。

(早川雅晴)

 

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PDFファイル 331.0 KB

11. 千葉ポートパークの二枚貝類の解明!

  千葉県立千葉北高等学校 生物部 2年 井戸遼太郎・大石一樹・大塚日愛・五十嵐奏太・石濱龍之介・久保柊馬・下田青葉・三浦昇真・山田華穂・若林優羽

 

人工海浜である千葉ポートパークには、アサリなどの貝類が自然繁殖で生息している。春から秋まで多くの人が潮干狩りに訪れる。自由に採集ができるために採集圧が大きい。採集されても翌年出現するアサリ個体群がどのような周期で成長していくのかを明らかにするために、2017年から2022年に調査を行った。

その結果、5月から6月に10mm前後のアサリの稚貝が多数見られるようになることがわかった。このことから、アサリの産卵は、11月頃にあると考える。秋に稚貝が見られない(春に産卵がない)ことが特徴である。春に出現した稚貝の成長により、9月には殻長平均が約25mmになり、繁殖可能な大きさに成長することがわかった。7月の殻長の度数分布が2020年から3年間ほぼ同じであることから、例年この周期で成長していくものと考える。10月以降、個体数が激減することも特徴である。この現象が、全国的なアサリの激減と関連している可能性があるので今後検証していきたい。


[講評]

千葉北高校の6年間にわたっての調査に敬意を表します。

アサリの成長記録では2017年から19年のほぼ毎月1回の調査で個体数の増減と殻長の平均が見やすいグラフによって示されています。17年の夏の赤潮でこの年の7月以降は個体数が激減していますが18年19年は春から夏にかけて個体数も増加し殻長も大きくなる周期性が読み取れます。考察にあるように秋の個体数減少の解明に期待しています。

アサリ個体群の18年から19年の月ごとの度数分布のグラフでは、5月から夏にかけて殻長の平均値や最頻値が増加しているのがわかりますが、最小値も明示して稚貝が秋にみられないことをはっきり示したほう良いと思いました。20年から22年の7月の度数分布図はよく似た図になりましたが、その前後の月の比較もしないと3か年とも同じような周期変化をしていることを説明するには不十分のような気がします。

また、ポートパークでの産卵は秋と推測していますが、三番瀬ではアサリの主要な繁殖期間は春から初夏にある(風呂田、東京湾の生物誌p.61、築地書館、1997)とありますので、その点は検討が必要でしょうか。

浮遊幼生が東京湾の同じ場所にずっといるのか、あるいは冬は時計回り夏は反時計回りの湾流に乗って流れてくるのか興味あるところです。

他の2枚貝類について、種名だけでなく記録日や殻長などもまとめて、他の場所との比較検討できればと思います。息の長い研究に期待しています。

(笠原孝夫)

 

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PDFファイル 1.0 MB

12. 太東海岸の季節による生物の変化 

千葉県立茂原樟陽高等学校 科学部 3年 白川道威 ・小倉夏樹 

 

1.目的 

本研究では太東海岸の季節による生物の変化を明らかにすることを目的とした。 

2.方法

5~9 月に海岸へ行き手網を用いて生物を採集し記録した。 

3.結果 

捕獲調査を行った結果を以下の表 1 に示す。 

多少異なる点はありつつも、時期によって捕れる生物に共通性が見られた。 

 

 

4.考察 

温かい海域で早期に生まれたキタマクラの稚魚が海流に乗って大東海岸に流れ着いたと考えられる。同様に、クサフグの産卵は 5~8 月であるため、その時に生まれた子供が大東海岸で確認できたものと示唆される。 

9月にギンポの稚魚が多く確認できたのは、ギンポの産卵期が秋~冬にかけてからであり、早く生まれた稚魚がフグ類と同様、海岸に流れ着いたものと推測される。 

ガザミは、旬となる 7~8 月後半にかけて大東海岸でも確認できた。


[講評]

生物の定点観測をしてみるといろいろな発見がありますね。たとえば毎年7月に見つかるガザミは季節によって浅瀬と深場を移動することが知られていますので、その生態を考えてみるのも面白いと思います。チョウチョウウオのような死滅回遊魚が獲れたり獲れなかったりする要因を考えてみるのも面白そうです。また、釣り人や漁師さんにお話を聞いてその時期に獲れる生物の情報を教わると、さらに地域の海の生物についての知識が深まるでしょう。今後の展望として水温等の環境条件の測定が挙げられていますが、千葉県水産情報通信センターのウェブページなどには海水温や潮流のデータが公開されていますので、参考にしてみてください。

(尾崎煙雄)

 

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PDFファイル 744.8 KB

2022年度 第75回 児童生徒生物研究発表大会 発表の募集

 

新型コロナ禍の中、各位におかれましてはご健勝にてお過ごしのことと存じます。千葉県生物学会主催の児童生徒生物研究発表大会は今年度で75回を迎えることになりましたが、新型コロナの感染拡大のため従来行ってきました発表形式を変えて、下記の形で開催することになりました。新型コロナの流行で、研究活動を行う時間が十分確保できなかったかもしれませんが、研究活動の成果を是非発表していただきたいと思います。多数の方のご参加をお待ち致しております。

                      記

 

1. 発表形式:千葉県生物学会のホームページ上に研究内容を掲示します。

2. 主催:千葉県生物学会

3. 後援(申請中):千葉県教育委員会・千葉市教育委員会 

4. 発表内容:生物に関するもの、生物を材料に研究したものであれば結構です。

       内容のレベルは問いません。未完成のものでも構いません。

5.発表の申し込み:2022年10月20日(木曜日)までに次の①~④のことを、6の申し込み先にご連絡ください。

 ①発表の題名
 ②発表者(共同の場合は全員を記入、名前にふりがなを付記ください) 
 ③学校名、部活の場合は部名称、学年
 ④連絡先(住所・電話番号・FAX・Eメールなど)

6. 参加申し込み先:鶴岡邦雄メール ar3k-trok <at> asahi-net.or.jp

 参加申し込みは上記のメールで行います。誤送信や申込み漏れを防止するために、申し込みされたことを鶴岡邦雄にご連絡ください。携帯番号 080-1173-9783 FAX 0475-35-3159

7.  発表の受付について

 千葉県内にある学校、または千葉県内に住居している児童生徒を優先して受付します。

 千葉県以外の方は仮受付をし、発表数に余裕がある場合に発表していただきます。発表の可否は、締め切り後に千葉県生物学会自然観察普及部から連絡致します。

8.  発表された方には後日、表彰状を送ります。また講評を付けて千葉県生物学会が発行する学会誌「千葉生物誌」掲載します。

9.  発表形式について

①研究内容をミニ論文形式(口頭発表のものを文章発表に変換したものでも結構です)、またはパワーポイントなどを使った、あるいは手書き、ないしはそれらを組み合わせた紙芝居形式で作製してください。用紙サイズは1ページがA4判横書き版で、全体のページはミニ論文なら3ページ以内で、紙芝居形式なら10枚以内でまとめてください。

②図表や写真などは大きさを考慮の上、載せてください。

③ミニ論文の場合、テーマの文字は14ポイント、発表者名は12ポイント、本文は10ポイントの大きさでお願いします。本文は「である調」で書いてください。紙芝居の場合は文字の大きさはこの限りではありません。見やすい大きさとしてください。

④作製できましたら、2022年11月12日(土曜日)までに、6の参加申し込み先(鶴岡邦雄)までPDFファイルで送ってください。ファイルサイズが大きくなり過ぎないよう、ご配慮ください。(最大サイズ:5MB)

⑤2022年12月1日(木曜日)~2023年1月31日(火曜日)までの2ケ月間、千葉県生物学会のホームページで公開し掲示します。

⑥発表形式についての質問等は、藤田隆夫(ft24220 <at> gmail.com 電話047-462-0895)にお願いします。

 

以上

『千葉県いきものかんさつガイド』表紙
2018年2月刊行の千葉県生物学会70周年記念出版『千葉県いきもの かんさつガイド』(たけしま出版)の表紙